「文化祭」(後編)
○前回のあらすじ
祐子(中3)の文化祭でのクラスの出し物は『ボンダンス』であることを
知る。はたして、ボンダンスとは・・・。
室長と一年後輩のO先生とともにM中の文化祭へ向かった。
文化祭の学校はよそ行きに着飾って、華やかな雰囲気を放っていた。
大人の男3人で校舎内を見て回る。冷静に考えると、ちょっと異様な光景
ではあるが、保護者の方も多数いらっしゃったおかげで、さほど目立たな
い。
「おっ、ここだ!」
室長が発見する。3年2組の教室。
「あぁ、せんせ~!!」
尚子と佳美が僕たちを見つけ、大声を上げる。
二人の格好は「制服」である。何を当たり前のことを、と思われるかもし
れないが、M中の制服ではない。
尚子は私立のY校の制服を、佳美は公立のS校の制服を着てはしゃいでい
る。
彼女達のクラスの出し物は、「制服ファッションショー」。「絶対見に来る
ように」室長は約束させられたらしく、真っ先に彼女達を訪れたのだ。
「受験へのモチベーション向上」という「建前」とお祭り気分に浸りた
いという「本音」。
手作りながら華やかに飾り付けられた教室で、モデル気分を味わう彼女
達の目は実にキラキラしていた。なかなかの好企画ではないかと思う。
次に体育館へ向かう。ここでは「合唱」が行われている。ちょうど3年1
組の出番だ。知った顔が何人かいる。
舞台の右端で義治が歌っているのを見つける。心なしか、いつもの猫背の
角度がちょっぴり垂直方向へ近づいている気がする。
SMAPの「夜空ノムコウ」とGLAYの「However」が歌われた。
僕らが歌ったような「笹舟」のような歌は歌われないらしい。時は確実に
流れているようだ。
最後に、校庭である。
浴衣姿の祐子や孝則いた。
「おーい」と声をかけると、嬉しそうに手を振ってくれた。
浴衣を着た中学生達が円になり、両手のひじをちょこっと曲げて、頭上
に掲げる。手首がくるくると返り、両の手のひらが左右に向けられる。
その動作が何度か繰り返されたあと、頭上で一回、膝下で一回、手拍子
が鳴らされる。
そう、「ボンダンス」とは、「盆踊り」のことだった。
「ボンダンス」の書き込みを見つけた授業後、祐子に確かめた。
「先生、ボン、ダンスだよ。ダンスは分かるでしょ?」
祐子は唇を強く破裂させて『ボン』を発音した。
「踊りだろ?」
「だから、ボンはそのままだよ!」
閃いた。と同時に力も抜ける。
「あぁ、盆踊りかぁ。ボンをいろいろ考えちゃったよ」
「だって、先生、『盆』はもともと日本の言葉でしょ、英語はないよ!」
後で確かめてみた。「盆踊り」は英語では「the Bon festival dance」
というらしい。
「ボンダンス」だと、冠詞がないとか、「festival」が間につくんだとか、
まぁ、細かいことはいいだろう。青春の1ページにそんな野暮な口出しは
不要だ。
祭囃子と太鼓の音が校庭にこだまする。
さっきまでの空の青はその主役の座を完全に奪われていた。
明日の快晴を予告するような夕焼けが空一面に広がっていた。
○(登場する子供は仮名です。)
合資会社マネジメント・ブレイン・アソシエイツ
荒木 崇(チーフ・コンサルタント)

