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« 森村 誠一 || スティーブン・コヴィー »

カラスのコミュニケーション

カラスとは半年ほど暮らしたことがある。彼(だと思う)との生活は実に愉快痛快だった。それは、私が彼に何度もだまされて、ビスケットや彼のホビーであるピカピカ光る小物のコレクションをせしめられたところにある。

してやられことがいかにもカラスの仕業らしく、50円玉とかウエスハスをまんまとかすめられるたびに、家族はおおいにその話で盛り上がった。 

たとえば、一階の玄関あたりで犬にでも襲われたかのごとく彼が泣き叫ぶので二階の書斎から大急ぎで玄関へ降りていくと、おっとそこには彼の姿はなく、書斎あたりでなにやらカタカタ音がするばかりだったりする。もしやと思い二階へ駆け上がると、机の上においてあったはずのカッターナイフが消えている。

しまった、やられたとそーっと風呂場へ降り、ドアを細めに開けて覗いてみると、彼がカッターをくわえて意気揚々と歩いているのが伺える。

裏庭へ抜ける風呂場の出入り口の敷居が腐りかけていて、彼のあの黒くつやつやしたくちばしでやすやすと穴を穿たれてしまっていたのだが、そこが彼の秘密の洞穴になっていたわけだ。

彼はいとしげにカッターナイフを置くと洞穴に詰め込んである木屑を取り払い、中から50円玉、安全ピン、金属ボタンなどを取り出し、手に入れたばかりのカッターナイフを詰めこみ、心配らしく何度も何度もぐいぐいと詰め込む。

そしておもむろに、取り出した彼のコレクションをためつすがめつ裏返したりちょっと放り投げたり、午後のひと時をゆっくりと楽しむのであった。

われわれ家族は、彼にだまされるたびに一層深まる彼へのいとしさを振り切って、夏休み、彼をがカラスの世界へ帰るのを見守った。だますのもコミュニケーションに違いなく、彼との関係では、無関心よりははるかに意味のあるものだった。


担当:関口

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