「しょっぱさ」①
「先生」と呼ぶ声がした。
顔を上げると、輝彦が立っている。彼は一週間前、中学受験を終えたばか
りだ。第一志望のA中学は残念ながら不合格になり、第二志望のZ中学へ
の進学が決まっていた。
輝彦の得意科目は算数。本人も算数には相当自信を持っていた。理科も出
来は悪くない。社会はまずまず。となると問題は国語なのだが、その国語
が大の苦手。どうしても国語の成績だけが伸びない。
本人はいたって真面目。とてもいいヤツ。授業後も残って国語の過去問を
解き、僕も個別指導を何度も行った。彼は「うんうん」とうなずいて解説
を聞いてくれた。
しかし、結果不合格。国語が足を引っ張ったことは想像に難くない。僕の
力不足だった。
その輝彦が職員室の入口に立って「先生」と僕を呼ぶ。ちょうど暮れかけ
てきた太陽が彼の背中を照らし、逆光で顔が判然としない。
「おぅ輝彦、どうした?」
受験を終えた輝彦がわざわざ来てくれた。一体どんな用件なのか。努めて
明るく声をかけながら彼の元へ。
すると彼は両のこぶしを握り、両腕を突然上げた。
○次回へ続く
(登場する生徒名は全て仮名です。)
合資会社マネジメント・ブレイン・アソシエイツ
荒木 崇(チーフ・コンサルタント)

