踏み切り待ちの風景
踏み切り待ちをしていて、目に入ったのが、若い男女が並んでいる光景でした。
軽く手を前に重ねて揃えたまま二人とも動きません。電車が通過するのを待っている大勢の人間達だって「まだか」と焦れつつ、体を動かしながら待っているのです。だからこそ、その二人が僕の目にとまったのかもしれません。
どうやらその二人の目はある一点に注がれているようです。その視線の先を追ってみました。二人の先には杖をつきながら歩くお婆さんしかいません。そのお婆さんと二人の若い男女がどうにも結びつきません。でも、二人は明らかにこのお婆さんの後ろ姿を見つめているのです。
お婆さんがゆっくりと、陳腐な言い方をすれば、亀のような速さでちょうど曲がり角までやって来たときです、彼女は左手の杖をちょっと強めにガシッと地面につき、右の肩越しに後ろをほんの少し振り返り、右手を軽く上げました。
すると、二人の若者は彼女に軽く会釈を返します。お婆さんの右手の動作は二人への「じゃあね」の合図だったのです。
彼女がもとの体勢に戻り、またゆっくりと歩きはじめたとき、僕は初めて気付きました。お婆さんの白髪がきれいに後ろへ整えられていることを。
二人の若者は美容院の従業員だったのです。横文字の看板の、若い外国人女性が大きく飾られている、僕には全く縁のない、そんなお洒落な美容院です。
お婆さんの姿が曲がり角の向こうへ消えると、男女の若者は店先の観葉植物の様子をちょっと確認し、そして微笑のまま店の中へ消えていきました。
今日の昼、踏み切り待ちのときに見かけた、とある町のとある風景です。
金曜担当:荒木

