「しょっぱさ」③
○前号のあらすじ
輝彦が、第一志望校のA中学の繰上げ合格を知らせに塾へやってきた。
合格発表から1週間後のことだった。
みんなに祝福され、はにかむ様子を見て、嬉しい気持ちの反面、どうし
ても明恵のことを思い出さずにはいられなかった。
絶対間違いないと思われていた明恵のF学院不合格。信じられないと同
時に、輝彦と同様、「僕のせいだ」という思いも強く湧き上がってきた。
実際のところは分からない。しかし、僕の担当教科である「国語」が足
を引っ張ったのは間違いない。
「ちょっとおかしいぞ」と思い始めたのは、入試まで3ヶ月を切った11
月中旬ぐらいだったと思う。
三振かホームランか。そんな感じである。
とんでもなく難しい記述問題をバチッと正解したかと思えば、ここは正
解してほしいという問題でとんでもない間違いをしてしまう。
他の先生は気付いていなかったかもしれない。模擬試験でも国語の得点
は取れているし、偏差値だって上位である。
しかし、解答用紙に書かれた彼女の答え、そして、点数の取り方が気に
入らない。ほんのわずかなほころびではあったが、僕はそれが気になっ
てしょうがなかった。
難しい球でホームランを放っても、易しい球で打ち損じていては、勝利
は遠い。
実際、F学院の入試問題でさえも、メジャー級の変化球は多くて3~4
問程度。その他の球を確実にヒットにした者が合格を手にする。
なんとか確実性が増すよう、個別補習や個別課題で対応した。しかし、
僕の不安は消えることなく本番へ。
2月1日。F学院前の石段の上で明恵を激励する。
どうしてそんな言葉が出たのだろう。彼女と握手を交わした後、僕が発
した言葉は「大丈夫か?」だった。
彼女は力強く「うん、大丈夫!」と答えた。いつも塾で接するのと同じ
ような様子だった。
でも、今思えば、彼女のそんな様子は、僕が「そうであってほしい」と
願った、その気持ちが僕に「いつもと同じ」と思わせただけなのかもし
れない。
○次回へ続く
(登場する生徒名は全て仮名です。)
合資会社マネジメント・ブレイン・アソシエイツ
荒木 崇(チーフ・コンサルタント)

