「マイケル」(中編)
○前回のあらすじ
普段、国語しか教えていない僕が「新中学1年生準備講座」の英語の授業
を担当することとなった。
国語教師「荒木又衛門」は「マイケル荒木」と名を変え、授業に備えなけ
ればならなくなった。
さて、「パーフェクトマイケル」に一歩でも近づくためには入念な準備が
必要である。
英語のY先生から、「生徒が絶対『お~』って言うよ」というパフォーマ
ンスを教わる。
生徒に配布するサブノートにはアルファベットを正確に書くために4本
の横線が引いてある。上から3番目の線は赤い。授業では、黒板に4本
線を引き、アルファベットを書く際の注意点を指導する。
この横線を黒板に一気に引くのだそうだ。
僕は右利きなので、右手を使用する。言うまでもないが、両手合わせて
指は10本。右手には5本。ということは、指と指の間にチョークを挟
んでいくと、指の間に4本のチョークを挟むことができる。
中指と薬指の間には赤いチョークを、その他には白いチョークを挟み、
握りこぶしを作る。
すると、握りこぶしの間から4本のチョークが顔を出す。その4本を親
指を上にして黒板にぶつけ、一気に直線を引くと・・・。
はい、4本の直線がほぼ等間隔で引ける。赤チョークを挟んだ上から3
番目の直線は赤い。
これで生徒は盛り上がるらしい。ホントかどうか疑わしいが、その真偽
は実際の授業で生徒達が証明してくれる。
英語の中身とは全く関係のないそんなパフォーマンスを結構練習した。
指の間が痛いが、マイケル荒木の「マ」ぐらいは克服できただろうか。
そんなことを考えながら、並行して別の練習もする。
お決まりの「ABCの歌」である。ただし、「これを歌うんだよ」と教
室の英語責任者のU先生から渡されたCDから流れてきた「ABCの歌」
は僕がよく知っている「キ~ラキ~ラひ~か~る~~」の節ではない。
アップテンポで、どことなくラップ調の「ABCの歌」なのだ。
心の底からオ~マイゴッド!
そんな歌を生徒が知っているはずもなく、彼らが歌えるようになるには
彼らを導く、教師が必要だ。
それは誰だ?と問うてみたが、CDが臨機応変に歌指導ができるはずも
ないことは、鯨が魚でないのと同様に明らかなことである。
授業前、CDプレイヤー片手に誰もいない教室で一人カラオケである。
とっても寂しい。とっても寂しいのだが、それに負けていては真のマイ
ケルにはなれない。マイケルへの道は遠く、そして険しい。
いろいろと英語の先生に聞いているうちに「教える内容」よりも「教え
方」が重要であることが分かってきた。
教える内容は、アルファベットに、英語のあいさつに、dogやらbagや
らの簡単な単語なのだ。
「A」はどんなに頑張っても所詮「エー」でしかなく、ただ教えるだけ
なら、全部ひっくるめたってたいした時間にはならない。
アルファベットを覚えるための「ハエ叩きゲーム」や体の各部の単語を
覚えるための「ダンス」も仕込み、本番に臨んだ。
まさに歌って踊れるマイケル荒木である。
○次回へ続く。
(登場する生徒名は全て仮名です。)
合資会社マネジメント・ブレイン・アソシエイツ
荒木 崇(チーフ・コンサルタント)

