「変化」
案の定、光太郎(中2)のお母さんは驚きの声をあげた。学校名を丸で囲
み、ボールペンの先で数値を指し示した直後のことである。
「えっ、こんなに高いんですか!!」
新入生の光太郎。お母さんとの面談はその日が初めてだった。そうでなけ
れば、こんなに驚くこともない。僕は答える。
「そうなんですよ。お母さんのイメージはあまり良くないとは思いますが、
学校も努力していらっしゃって今では人気校ですし、大学合格実績も随分
と上がっていますよ」
お母さんが「高い」と驚かれたのは、金額のことではない。最新の私立高
校の偏差値一覧をお見せしたのだ。
面談では当然志望校のことも話題にのぼる。光太郎の現状を見て、公立ト
ップ校に合格できるよう指導したいことをお伝えした。
お母さんは私立高校のことも教えてほしいとおっしゃるので、公立トップ
校の併願私立(Vol.216・217参照)となる学校名をいくつか挙
げた。
その中の一つの男子校、Z高校にお母さんは反応した。
「先生、Z高校って、あのZ高校ですか?」
「あの」と言われても、その「あの」が具体的に何を指すのかは分からな
いが、それが良からぬ響きを持っていることだけは確かだ。しかし、そう
いった反応は、実は初めてではない。今まで数人の保護者の方が同じ反応
を示したのだ。
「そうです、あのZ高校です」
半信半疑のお母さん。百聞は一見に如かず。論より証拠。今にも残る格言
はやはり本質を突いている。僕はお土産用に用意した偏差値表をお母さん
にお見せし、Z高校を丸で囲み、左側の偏差値の数値をボールペンの先で
指し示したのだ。偏差値は60を軽く超えていた。
光太郎のお母さんがまだ中学・高校生だったころ、私立Z高校は不良の巣
窟だったそうだ。もちろん、学力レベルは高くない。勉強が苦手な子供が
Z高校へと入学していった。
多くのお母さん・お父さんはその頃のイメージを強烈に持っている。だか
ら、トップ校の併願としてZ高校の名前が挙がると少なからず驚くのだ。
しかし、時はこの瞬間も確実に流れ、人は歳をとる。時代も変わる。当然、
学校が変わったっておかしくない。Z高校にその頃の面影はない。学校の
自助努力、経営努力によって大きく変わったのだ。
「お母さんの時代はあまり印象が良くなかったみたいですね」
お母さんは「そうなんですよ」と言いながら、まだ信じられない様子で
ある。
「今では大学の合格実績もいいですよ」
もう一つ別の資料でZ高校の合格実績数値をお見せした。首都圏の有名
私立大学の実績も悪くない。
「あぁ、そうですね。随分と変わったんですねぇ」
私立の学校も生き残りをかけて必死である。昔のイメージはあくまで昔
のことなのだ。
(登場する生徒名は全て仮名です。)
合資会社マネジメント・ブレイン・アソシエイツ
荒木 崇(チーフ・コンサルタント)
http://www.management-brain.co.jp/

