寺田 寅彦
最後の一歩というのが実はそれまでの千万歩よりも
幾層倍むつかしいという場合が何事によらずしばしばある。
◇詰めの甘い人とよく言われた。最後の最後で、ドジを犯す人とよく言
われた。どうも、ゴール目前で嬉しくなって、力が抜けてしまうのだ。
どうも成功の喜びが先にたって、意識が宙を舞うのだ。
◇こんな自分が、今日の言霊を語る資格はないのだが、本当に最後の一
歩が難しいということが、今まで何回となくあった。後一歩のところで、
届かないということが何回となくあった。
◇何事においても、スタートとゴールが付きまとう。良いスタートを
切り、良いプロセスを経て、そして良いゴールを迎える。それが理想
だが、現実的には、良いゴールのみを目指すことになる。
◇良いスタートを切っても、良いプロセスを保証しないし、ましてや
良いゴールなどスタート時点で分かるわけもない。だから、私たちは、
良いゴールを是が非でも迎えて、後付けとしてよいスタートだったな!
とか良いプロセスだったな! とか、言えるようにするだけだ。それ
が一番確実なものだ。
◇昔、小学生の時、先生に「遠足は家につくまでが遠足だからね。最
後までしっかりするのよ」と言われたものだ。良い遠足とは、無事に
帰ってくることなのだ。ゴールまで気を抜いてはならないのだ。

