「帰国」(後編)
○前回のあらすじ
帰国子女の舞とお母さんが塾へやってきたのは小6の5月だった。
中学受験を希望しているのだが、他の塾では断られたらしい。
しかし、僕たちは大歓迎だった。
室長も僕もある確信があったのだ。
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実は、それまでに何人もの帰国子女の生徒の中学受験を経験していた。
「帰国子女枠」を設けている学校も少なくないのだ。
受験条件は学校によって異なるが、「帰国してからの年数」と「帰国前
に住んでいた国」がポイントとなる学校が多かった。
例えば、小学1年生のときに帰国した場合、帰国してからの年数が長
いため、帰国枠としての受験資格を得られなかったりする。
また、「英語圏」の国に住んでいた場合、受験可能な学校が多かったよ
うに記憶している。「英語に堪能な生徒」というのは、学校にとっても
欲しい生徒であるのだ。
問い合わせにいらっしゃった段階で、舞がこれらの条件に合致するか
どうかの確認はしていた。
彼女の場合、帰国後1年に満たない。アメリカに暮らしていたという
ことで、もちろん「英語圏」である。
しかも、お母さんによると、「帰国枠」で受験できる学校をご希望であ
った。この条件で帰国枠受験で不合格だった生徒を実は知らない。入
塾を断る理由は何もない。
英語による面接をする場合があるので、後は舞がしっかりとしゃべる
ことができるように面接訓練を行う必要があるが、英語の先生に協力
してもらえば、ほぼ問題ないだろう。
「入学してから、困らないようにしっかりと学力をつけてあげなきゃ
いけないな」と、早くもそんなことまで考えていた。
最初は遠慮していたようだったが、塾で友達もでき、舞は、徐々に積
極的になっていった。苦手な漢字も一生懸命練習して、少しずつテス
トの点数も上がっていった。
ある日のことだ。授業中の記述問題の書き直しの指示を与えようと思
い、授業後、職員室へ舞を呼び出した。すると、舞がこう言った。
「先生、早くしてね。遅くなっちゃうと、バスをミスしちゃう」
『バスをミスする』。
面白い表現だと思った。一瞬、何のことだか分からなかったが、確か
に「miss」には「電車などを乗りそこなう」という意味がある。
「やはり帰国枠での合格は間違いない!」と思った。もちろん、何の
根拠もないのだが、何故かそう思ったのだ。
舞が帰った後、英語のR先生に、舞がしゃべった「miss」について話
した。
「そりゃ、中3でも、よう使わん表現やな」と神戸出身の彼は関西弁
で言う。「もう、それだけで合格や!」
R先生の関西弁まじりの英語の面接訓練を経て、舞は帰国枠受験に臨
んだ。3校受験し、見事、全校合格。
合格してからも漢字と計算の練習だけは欠かさずやらせた。「ミス」も
かなり減ってはいたのだが。
(登場する生徒名は全て仮名です。)

