セミナーレポート 青森県総合学校教育センター
民間企業出身者が公立学校の校長になったり、また学習塾の授業ノウハウを
学校が取り入れるなど、学校と民間との交流が、近年、開かれつつあります。
そんな中、学校経営の最前線で奮闘する教頭職にある青森県の先生方を対象と
た「コーチングを活用した学校経営」と題された研修講座が、青森県総合教育
センターで催されました。
この講師として招かれたのが、弊社代表中土井鉄信氏と、弊社シニアコーチ・
心理カウンセラーである井上郁夫氏の二人です。以前は神奈川県内の大手学習
塾に勤務し、現在は教育機関専門のコンサルティング会社である合資会社マネ
ジメント・ブレイン・アソシエイツに在籍する二人の研修は、学校教育のベテ
ランである青森県の現役の教頭先生方にどのように受け取られたのでしょうか?
民間教育と学校教育の交流の一端としてこの研修を位置づけ、その模様をレポー
ト形式でお伝えします。

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セミナーレポート
青森県総合学校教育センター「コーチングを活用した学校経営」
■もっと教育を良くしたい、が結びつける「民間」と「学校」■
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■80名の教頭先生へ向けた学校経営の理論的背景
青森県総合学校教育センターは、学校教育の充実振興を図るため
に設けられた同県の教育委員会の組織。同センターは北に青森湾、
後背に八甲田の山々が聳える青森市の大矢沢に10年ほど前に移転
され、ここを拠点として、先生方の専門性と資質の向上をはかる研
修講座を毎年約200近く開講している。
東京ドームに匹敵する広大な敷地内には、4階建ての管理研修棟
の他、体育館やグラウンドなどの体育施設、研修・実験施設として
プラネタリウムや60cm反射望遠鏡があり、教員の研修の場として最
適な環境が整備されているのも素晴らしい。
今回の研修があったのは、八甲田の色鮮やかな紅葉も終わり、北
国への本格的な冬の到来が間近に感じられるようになった11月28日
のことであった。
「コーチングを活用した学校経営」を受講したのは、青森県の公立
小・中・高・養護・盲校・聾学校の教頭職の80名の先生方。
午前9時にスタートした研修で、初めに教壇に立ったのは、合資会
社マネジメント・ブレイン・アソシエイツ代表の中土井鉄信氏である。
410名を収容できる大研修室に、中土井鉄信氏の朗々たる声が響
き、研修はスタート。研修は、2部構成で、前半には「学校経営とリー
ダーシップ」というテーマで中土井氏が講演を行い、後半はワークショ
ップ形式で「コーチングコミュニケーション」をテーマとした研修を
井上郁夫氏が担当した。
前半の「学校経営とリーダーシップ」では、学校の管理職である教
頭先生に是非とも知っておいてもらいたい基礎知識として、マネジメ
ントの概念やリーダーとしての役割が中土井氏より説明された。<マネ
ジメントの父>とも呼ばれるピーター・ドラッカーや、組織戦略論の大
家であるスマントラ・ゴシャールら経営学の第一人者の組織理論を、
企業から学校経営に置き換え説明するのは、教育機関専門の経営コン
サルタントとして奮闘する中土井氏ならではの知見のなせる技。
自分の担当科目や教育学などには精通している教頭先生方だが、経
済学や経営学は畑違いの方も多く、組織論や戦略論の講義は新鮮であ
ったようで、引き込まれるように聞いている姿が見られたのが印象的
であった。
さらに、部下である現場の先生方のセルフ・エステーム(自己重要
感・自己有能感)を高め、やる気を引き出す方法論を中土井氏は紹介。
最後にコーチングを学校経営に活かす前提となるコミュニケーション
の基本点が確認されていった。
■<指導>よりも<褒める・承認>することの大切さ
最後は、参加者からの盛大な拍手で終わった中土井氏の講演であった
が、実は、講演の途中では、潮が引くようにサーッと参加者の関心が退
く場面があったことは指摘しておいた方がいいだろう。
それは、中土井氏が、「子ども達の悪い点を直そうと指導するのが、
教師の仕事であると考えるのは思い上がりです」と発言した場面であっ
た。
教頭の先生方にしてみれば、長年にわたり教育の最前線で子供たちを
指導してきたという強い自負心があり、この発言には内心、反発を抱い
た方も多かったのかもしれない。講演を聞いていた主催者である青森県
総合学校教育センターの職員の方も、さすがに心配顔になって、
「大丈夫ですか?」と、隣に座っていた第2部の講師である井上氏に目
配せをしたほどであった。
しかし、中土井氏の真意が伝わり、教頭先生方の疑心暗鬼が氷解する
までは、さほどは時間はかからなかった。
人(子供)の悪いところを指摘し、それを改善しようと指導するとい
う行為が、いかに悪いところを指摘される側(子供)にとって精神的な
苦痛をともなうのかを、あるロールプレイを講演中に実施し、教頭先生
方に実感として知ってもらったためだ。
「ホラ、先生方は生徒のためと言いながら悪い点を直そうと指導をしま
すが、生徒にとっては辛いことなんですよ」という中土井氏の発言があ
ると、「アーッ」という参加者の感嘆の声がそこかしらから漏れてきた。
続けて、中土井氏は「指導」ではなく、子ども達の良いところをいか
に認め、承認し、それをいかに向上させるかが教師のもっとも大切な役
割であるかを力説。
これを境として、教頭先生方の疑心暗鬼は払拭され、会場のボルテージ
はさらに熱を帯びていくこととなっていった。
青森県総合学校教育センターの職員の方も、この変化には驚いたよう
で、講演後には破顔一笑、先ほどの挑発的な話は、生徒を褒めることの
大切さを強調する伏線だったのですね、とニコやかな表情をみせていた。

■ワークショップ形式での部下をやる気にさせる実践的コーチング
中土井氏の講演後、昼食をはさんで午前と午後にまたがって約3時間
かけて行われたのが、第二部の「コーチングコミュニケーション」であ
る。講師を務めたのは井上郁夫氏。第二部で研修の主眼となったのは、
「明日、教頭先生が学校に行き、元気のない部下の先生がいたら、その
先生が元気になるようにする」、そんな実践的なコーチングの手法を伝
えることである。
第二部では、ワークショップ形式の演習が大幅に取り入れられ、会場
となる研修室もより参加者同士のコミュニケーションがとりやすい中規
模の研修室へと移された。
はじめは望ましい人の話の聞き方の習得から。アイコンタクトや、ミ
ラーリング、ペーシングなどの「傾聴」手法を参加者が二人、もしくは
三人の組に分かれ、言葉をかけあいながら実践した。また、「Iレベル」
「Youレベル」などの傾聴の手法、限定質問・拡大質問・未来質問・肯定
質問などの問いかけのノウハウが、井上氏により説明され、参加者間同
士で実践されていった。
そして井上氏が最後に用意したワークショップの課題が、「教師になっ
て一番良かったことは何ですか?」「教師として、まだ成し遂げていな
いことは何ですか?」といった質問を投げかけあうことであった。
教頭先生の方々の中には、この質問に答えるのは、ひょっとした気恥
ずかしい気持ちもあったかもしれない。しかし、井上氏は言う。
「研修の最後にこうした質問を用意したのは、ともすれば惰性になりが
ちな教師という仕事を自分自身でもう一度省み、さらに未来に向けての
教師像を自ら用意することで、教頭先生に自分自身のセルフエステーム
を高めてもらいたかったからです。教頭先生が自信をもって明るく振舞
えるようになれば、それが学校の雰囲気を良くし、現場の先生を明るく
し、ひいては生徒の元気へと結びついていきますから‥‥」


■自分の学校を良くしよう、もっと教師として成長しようという姿勢に敬服
研修が終わると、何人かの教頭先生が講師を務めた二人のもとへ立ち
寄り、談笑する風景がみられた。どうやら、民間教育で培ったコーチン
グや教育機関の経営ノウハウは、学校経営の中でも活かされそうだ。
約5時間にわたる研修後、講師を務めた二人に印象を聞いた。
「教頭先生ですから、年齢的にも僕らより上(二人は共に昭和36年生ま
れ)ですし、また学校教育の現場に身を置いていた期間も長く、それぞ
れが自分独自の教育観をもっていらっしゃることでしょう。そんなベテ
ランの先生方が、同じ教育の現場にいながらも、民間教育が長い僕らの
話を、ものすごく一生懸命に聞いていただいていた様子には敬服いたし
ました。自分の学校を良くしよう、もっと教師として成長しよう、その
ためには自分とは違うキャリアの人間から吸収できるものは何でも吸収
してしまおう、そんな強い意気込みを感じました。学校も、ずいぶんと
開かれてきたものです」と中土井氏。
「大昔、ロシアから北海道を経て津軽海峡を渡り、北東北の地にたどり
着いた祖先が、日本全土に分散したという説がありますね。それと同じ
ように、青森から、新しい教育の波が起きてもらいたいものです。今回
の研修が、青森の教育にいくらかの貢献ができたとしたら、それで子ど
も達が元気になってくれればこれに勝る喜びはありません」と井上氏。
粉雪が舞う中、帰路についた二人の足取りは、いつもよりずっと軽や
かだった。

