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「回す」

日本語って難しい。人に何かを伝えるのって難しい。


ふとしたことでそんなことを思う。


2歳になる女の子をお持ちのお母さんからこんな話を聞いた。


お母さんがお父さんのコーヒーをいれていたとき、ミルクを入れたあと、
娘さんにスプーンを渡した。かき混ぜさせようと思ったのだ。お父さん
もとても喜ぶだろう。


「マイちゃん、グルグルするんだよ」とお母さんは言った。


すると、マイちゃんは、スプーンをほっぽりだし、机に置いたコーヒー
カップそのものをグルグルと両手で回し始めた。


お父さんもお母さんもこの姿に大爆笑だったらしい。想像しただけでも
なんとも可愛らしく、微笑ましい光景である。

実はこの話を聞いて、思い出したことがあるのだ。小学3年生の授業で
のことだ。


小3と言っても、春期講習。学校では2年生が終わったばかり。まだま
だ幼い顔が10名ぐらいちょこんと腰掛けていた。


春期講習用の薄いテキストを3冊手に取り、一番前に座る竜馬クンに手
渡す。


僕は自分でもこれ以上ないくらいに優しい声音で、普段の僕を知ってる
生徒からすれば気色悪い声音で、言った。


「回してね」


すると、竜馬クンはやってくれた。クルクルと。
両手に持ったテキストをと机と平行に回転させた。
確かに回した。彼は間違っていない。
悪いのは僕だ。


「あっ、ごめんね、一冊取って、後ろの人に渡してね」


これ以上ないくらいに優しい声音のさらにこれ以上で僕は言った。

その次の時間は小6だった。竜馬のクルクルの話しをすると、女の子
は一様に「かわいい」という声をあげる。男子「ありえねぇ」とか、
「先生、それでどうしたの?」という反応。


わずか3歳しか違わないが、気を使わずに話さなくてすむことに安堵を
感じる僕。日本語って難しい。人に何かを伝えるのって難しい。

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