「クシャっ」
ある日の中学受験6年生の授業のこと。
「はい、時間!そこまで!!」と問題演習を切り上げた。
すると「もう、ホント、やだ!」とぼやいたのは美羽である。
「どうした?何がイヤだった?」。僕はきいた。
こういう何気ない一言を逃さず反応してやりたいと思っている。
独り言っぽいことでも、実際は僕に聞いてもらいたかったりするからだ。
論説文の内容が難しかったか、記述ばかりの設問に嫌気がさしたか。
それとも、もっと別なことか。
美羽が言う。
「だってぇ・・・」
苦手なもの、嫌いなもの。誰にでもあるだろう。
僕の場合、食べ物ならシイタケ。
味なのか匂いなのか、小さい頃から嫌いだったので今となっては何が
原因なのかは分からない。もはや理屈じゃないのだろう。
虫。
田舎で育ったので、ちびっ子時代はバッタだの、カブトムシだの、
セミだの、採集しまくった。
もちろん、採集はしなかったが、ゴキブリだってわりと平気だった。
ゴキブリに罪はないが、ビシビシと退治していた。
ある日、夜中に目覚めてトイレに立った。真っ暗な中、トイレの扉の前
までたどり着いた瞬間である。右足が何かをクシャっと踏んだ。
美羽が言う。
「ワタシ、ゴキブリ嫌いなのにぃ~~」。
文章の中には虫とか動物とかがよく出てくる。与えた論説文には『ゴキ
ブリ』が登場していた。何の根拠もないのに悪者にされている、という
内容だったと思う。
つながった。「俺もなんだよぉ!」
そして、ゴキブリを嫌うきっかけになったあの夜の事件のことを話した。
「うわぁぁ」という美羽の低い声が響く。そして。
「先生、こっちにこないで!」
手のひらをこちらに向けて、右手を思いっきり伸ばす美羽。
「いや、昨日の夜のことじゃなくて、もう20年以上前のことなんだ
けど・・・」
明らかな拒絶が哀しかった。しかも、僕は何も悪くない。
『ゴキブリ』もこんな気持ちなのだろうか。
(生徒名は仮名です。)
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◇◇◇ Global Thinking and Local Acting ◇◇◇
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