「境目」
駅のホームで電車を待っていると、小中学生の頃よく聞かされたのに似た、
非常に不快な甲高い声が、左斜め後ろから流れてきた。
激しく降る雨がホームの屋根にぶつかり、バラバラと音を立てていたが、
それでも、その声ははっきりと僕の耳まで届いた。
振り返って、見た。
雨合羽を着た小5ぐらいの男の子。
その横にやっぱり雨合羽を来た妹らしき小2ぐらいの女の子。
そして、険しい顔で女の子を見下ろす母親。
「なんで白いクツ、履いてきたの!なんで!もう!!」
お母さんは女の子が白いクツを履いてきたことに激怒している。
おそらく、泥水で白いクツが汚れるのが気に入らないのだろう。
それにしてもしつこい。
結構な数の「なんで」を女の子にぶつけている。
もちろん、女の子は答えない。お母さんが「なんで」に対する答えを求
めていないのは分かっているのだろう。
「だって、せっかく出かけるんだから、一番お気に入りがはきたいかっ
たの」なんて答えようものなら、さらなる怒声が浴びせかけられるだろう。
しかし、女の子の行為は、それほどまでに怒ることなのだろうか。
汚れたクツを洗うのはお母さんなのだろう。ただでさえ、大変な家事なの
に、やらなくても済んだ仕事が一つ増える苦労は理解できる。だから怒る
のだろう。
しかし、それならば、出かけるときに一言、声をかければ良かったではな
いか。「今日は雨だから、白いクツ、履かないでね。お母さん、洗うの大
変なんだから、我慢してね」と。
それでも、どうしても娘が「履く」というのなら、彼女がクツを洗うとい
う約束をすればよい。
お母さんは「まさか白いクツを履いてくるとは!」と思ったのだろうが、
女の子も「まさか白いクツを履いて怒られるとは!」と思ったかもしれな
い。
僕なら思う。「こんなところで今さら言うなよ。最初に言えよ!」と。
「別にクツが汚れるくらいいいじゃねぇか!どうせ俺が履くんだから!」と。
その翌日。
コンビニで買い物をして出た。入れ違いに入ろうとする親子連れとすれ
違った。3歳ぐらいの女の子とお母さんだ。
コンビニの入り口には大相撲巡業のポスターが貼ってあった。それを見
た女の子が言う。
「おすもうさんだよ、おすもうさん!」
お母さんは言う。
「そうだね、おすもうさんだね。よく分かったね、エライね!」
この女の子は、この調子でいつもほめられているのだろう。
「すごいね、エライね」と。
おそらく、駅のホームで怒られていた女の子も、もっと小さい頃には同
じように褒められていたに違いない。泥水の中でバシャバシャとはしゃ
いでも「元気な女の子だね!」と目を細められていたかもしれない。
いくつぐらいからだろう。「怒られる」が「褒められる」を上回るのは。
(生徒名は仮名です。)
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◇◇◇ Global Thinking and Local Acting ◇◇◇
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