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« 太宰 治 || 井上 靖 »

「乙女」

最初はちょっと驚いたが、周りの生徒にとっては別段変わったことではな
いらしい。そんな様子を見て、「案外、いい時代になったんじゃねぇの」と
思った。

当時F校舎所属だったが、週1回、二駅隣のM校舎へ小学生5年生の国語
を教えにいくことになった。

小学生の授業は4時30分から6時40分まで。30分後の7時10分か
ら、中学生の授業が始まる。

5年生の授業を終え、受付脇の机を借りて、授業報告書を記入していたら、
黄色に近いが、黄色とは言えず、甲高くはあるが、でもどこかに不自然さ
を感じる声が耳に刺さった。

「あーっ、見たことない先生がいるぅ!こんにちはぁ」

見たことない先生とはもちろん僕のことだ。

「あっ、こんにちは。はじめまして、アラキと申します。よろしくお願い
します。」

顔を上げ、声の主にあいさつをした。ジーンズに白いシャツを着ている
外見は、いたってフツウの中学生の男子がいた。前髪にちょこっと結ん
だちっちゃなリボンを除いては。

「タケ、そのリボン、カワイイじゃん!」

後からやってきた女の子がその男の子に声をかけ、教室に向かう。

「あー、ホント、うれしい!!」と黄色に近いが、黄色とは言えず、甲
高くはあるが、でもどこかに不自然さを感じる声でタケと呼ばれた男子
は答えた。

「じゃぁね、先生!」とタケは教室に向かった。

「おぅ、タケ、この前忘れた宿題、今日はちゃんとやってきたか?」

ドスのきいた声で室長がタケに声をかける。

「もうコワーイ!!」という声が聞こえてきた。

タケ(中2)。性別、男。心、女。

M校舎の先生に後で聞いたが、入塾時からずっとあんな感じだったらし
い。そして、周りの生徒も違和感なく、それを受け入れているとのこと
だ。

何でも、上に二人のお姉さんがいて、小さい頃からお姉さんの真似ばか
りをした結果、女の子っぽくなった、ということだが、真偽のほどは分
からない。

一昔前なら、異質な存在として、排除されていたかもしれない。そうい
う意味では「いい時代」になったなと思った。

テレビなどでは、性別は男性、心は女性というタレントの方たちが大活
躍していらっしゃる。そういったことの影響もあるのだろう。

それから、タケは毎週、声をかけてくれるようになった。授業を教える
わけではないが、随分と気に入られてしまった。

「ねぇ、先生、バレンタインどうしたらいいかなぁ?」

乙女の悩みは、尽きないみたいだ。

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     ◇◇◇ Global Thinking and Local Acting ◇◇◇
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