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「習字の先生」(中編)

○前回のあらすじ

僕は小3から小5まで、地元では名士と言われる人に書道を習っていた。
厳しい先生だったが、お正月には生徒を集めて新年会を開いてくれた。

新年会では坊主めくりに百人一首をやった。
百人一首の読み手は、先生の奥さんだ。

奥さんは子供にとても優しいお婆ちゃんで、先生が子供を叱ると、
それをたしなめるような人だった。

威厳ある先生と優しい奥さん。理想的な老夫婦だったのだが。
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有線電話というのをご存知だろうか。
飲食店などにあって音楽が流れてくるあの「有線」とは違う。


簡単に言うと、ある一定の地域内でしか通じない電話である。
もちろん、電話なので、通話が可能だ。しかも通話料は無料。


一般加入電話が普及していない地域(農林漁村など)で、自治体や地域団
体によって設置されていたようだ。


僕の住む市内の家庭には、一般の電話のほかに、この有線電話が各家庭に
設置されていた。みんな「有線」と呼んでいた。


市内には、有線を使って電話をしないと母親にめちゃくちゃ怒られた。有
線は「タダ」だからだ。家には有線しかなく、市外への通話は公衆電話を
使っている友人もいたぐらいだ。


この有線、通話機能だけではなく、地域の情報伝達の役目も担っている。
毎日、定期的に「市からのお知らせ」がラジオみたいに、流れてくるのだ。
基本的に有線が繋がっている限り、この放送を止めることは出来ない。


例えば、「お悔やみ放送」。市内で誰かがお亡くなりになると、どこの誰が
亡くなったのか、放送が入る。


「お悔やみ放送をいたします。○○町の××さんが、昨夜お亡くなりにな
りました・・・」。


父も母も、どんなにおしゃべりしていてもピタッと止めて、この放送には
じっと耳を傾けていたのを思い出す。狭い家だったので、有線の音はどこ
にいても聞こえてきた。


平日の毎朝六時半にも必ず放送が流れた。


「今週は交通安全強化週間です」、「10日は○○小学校の運動会です」な
ど、市からのお知らせと、そして、なぜか、その日の学校給食の献立が必
ず放送された。献立を聞いて、それからよく二度寝をしたものだ。

僕が小5のときだ。
新年の朝の放送で、百人一首の朗読が行われた。1日二十首ずつ、平日1
週間かけて毎朝放送された。


この朗読を行っていたのが、習字の先生の奥さんだった。後で知ったのだ
が、先生の奥さんは、その道では有名な百人一首の読み手の方だったらし
い。


新年会で、先生が読まずに、奥さんが読み手になった理由もなんとなくそ
の放送で分かった気がした。


その週は、「朝の有線放送の時間です」という声で目を覚まし、歌の内容
は全く分からなかったけれども、毎日、奥さんの百人一首の朗読を聞いた。

その放送から、ふた月ぐらいたっただろうか。先生の奥さんがお亡くなり
になった。習字教室も2週間ほど、お休みになった。


○次回へ続く。

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     ◇◇◇ Global Thinking and Local Acting ◇◇◇
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