「文学史」(後編)
○前回のあらすじ
夏期講習。
中3難関国私立高校受験クラスの国語の授業では、文学史を扱う。
毎年、時代背景、作品名と作者を教えるのだが、定着があまり良くない。
そこで、ある年の夏期講習、なんとか後々までも覚えておいてくれるよ
うに、一計を案じ、視覚にも訴えることにした。
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視覚に訴えるといっても、文学作品を「紙芝居」にして見せるわけには
いかない。
社会の資料集には、たくさんの写真が掲載されている。それをヒントに
した。
勝手な思い込みかもしれないが、生徒は顔写真が好きなように思う。特
に男子。学校の国語の教科書を持ってこさせると、何人かに1人は、作
者の写真にヒゲを付けたり、サングラスをかけたりと、なかなかの芸術
作品に仕上げている。
だから、近現代の作家の写真集を作った。
写真集といっても、たいそうなものではない。文庫本や資料集などをと
りあえず、たくさんかき集め、文庫文の裏表紙に載っている作家の写真、
資料集の写真を拡大コピーをした。
今なら、インターネットでイメージ検索をすれば、ざっくざっくと写真
も出てくるのだろうが、まだ、パソコンが爆発的に普及する少し前だっ
たので、これはちょっと苦労した。
写真のコピーをはさみでジョキジョキと切り取り、白い紙に貼ってゆく。
写真の下に作家名と有名な作品を書いた。昔懐かしい切り貼り作業だ。
顔写真のほうが大きくなるように気をつけた。
それを人数分コピーし、ホッチキスで止めて完成。
授業で配る。その年のクラスは、15人中、男子12名というなんとも
いびつな構成だった。そのせいか、反応は悪くなかった。みんな一斉に
ペラペラとめくり始まる。
博之が嬉しそうな声を上げる。
「誰だよ、コイツ、なんか気持ち悪いよ、先生!」
博之に気持ち悪いと言われてしまった谷崎潤一郎氏。すみません。
「先生、この人、何やってんの?ちょっとヤバそう」と明彦。
はい、自衛隊市ヶ谷基地で演説する三島由紀夫氏の写真ですから。そ
れしか入手できなかったんです。
さすがに千円札。夏目漱石の写真だけは100%の認知度だった。
僕は言う。
「近代からは、これを見ながら授業するから、絶対持ってこいよ!」
そして「いいか、絶対に写真に落書きするなよ!」と付け加えた。
「するな」と言われると、したくなるのが人情だ。多分、するんだろ
うなと思いながら、「するな」と言ったし、むしろ、落書きしてほし
い気持ちも充分にあった。
案の定。次の時間、博之の手によって、谷崎潤一郎氏は、謎のパンダ
オヤジと化していた。
で、肝心の生徒の定着度合いのほうだが。
苦労した割には例年どおりだった。谷崎潤一郎氏には、ひどく悪いこ
をしてしまった。ま、落書きをした当の本人は、きっと彼の名を忘れ
ないことと思う。作品を読むかは、別として。
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◇◇◇ Global Thinking and Local Acting ◇◇◇
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