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「剣道と先生と命と」(後編)


○前回のあらすじ

小3から地元の少年剣道団で、週3回剣道を習っていた僕は、とても弱く、
それを見るに見かねた母親が近所の魚屋のおじさんに特訓をお願いした。

その道では結構有名なそのおじさんのもと、週1回、弟と「先生」の息子
さん兄弟と練習を重ねた。

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先生の指導のおかげで、少年剣道団の練習にもなんとかついていけるよ
うになった。まだ勝てるところまではいかなかったけれど。


こうして僕の兄弟と先生の息子さん兄弟と4人で仲良く週1回練習する
日が続いた。

ところが、ある日、緊急事態が起こった。
先生が倒れてしまったのだ。
単なる過労とかではなく、かなりの急病だった。


友だちと遊び、帰宅すると、夕方、普段いるはずの母の姿がない。
と、そこへ電話がかかってくる。母からだった。


かなり切迫した声で「今から市民病院へ来い」と言う。
訳も分からず弟と自転車を漕いで病院へ向かう。


着いたときにはすでに先生は「面会謝絶」となっていた。
先生の息子さん二人はロビーの隅のソファーに座っている。
弟とそこへ行き、正面に座った。
座ったけど、ただ座っただけで、誰も何も言わない。


長男の小5のマコちゃんが100円玉を3枚、両手で振り、
チャリチャリいわせていた。


チャリチャリ。
チャリチャリ。


そしてテーブルの上に放る。
カタカタカタン。


拾って両手に収める。


チャリチャリ。
カタカタカタン。


チャリチャリ。
チャリチャリ。


面会謝絶の札がかかった病室から看護婦さんが出てくる。
息子二人が呼ばれた。先生が「子供の顔が見たい」と言うのだ。


チャラ。
百円玉を半ズボンのポケットに突っ込み、マコちゃんと弟は病室へ
向かう。


その後姿を見た。
そこで初めて気が付いた。


ロビーには大勢の大人たちがいた。
本当に大勢の大人たちがいた。
みんな何も言わない。
泣いてる人もいる。
全部、先生のために集まった人たちだ。


このとき、実感した。
「人の一人の命って、こんなに重いんだ」と。

先生は、幸いなことに何とか一命を取りとめた。退院した先生は、ゲッ
ソリと痩せてしまった。


当然、剣道の練習は中止になり、少年剣道団で僕はまた弱っちさに拍車
をかけることとなる。

先生と最後にあったのは、大学2年のときだ。帰省した折、魚屋にご挨
拶に伺った。


「大きくなったねぇ」と言ってくださった。
先生の目には僕も小さいなりに大きくなったと映ったらしい。


そして、今、先生の魚屋さんは、ずっと閉じたままである。
この先もずっと、だ。

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     ◇◇◇ Global Thinking and Local Acting ◇◇◇
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