「思いと願い」(その4)
○前回のあらすじ
大病を患ったI先生。生徒たちに「誰かお医者さんになって、先生の病気
を治してくれよ」と冗談交じりによく言っていた。数年後、その言葉を覚
えていた生徒から「医者にはなれなかったけれど、薬剤師になった」とい
う報告をもらった。
I先生の「お医者さんになって」という話を聞いて、同じように生徒たち
に「お医者さんになってください」と語った先生を思い出した。
神戸出身のR先生は、毎日違う色シャツを着こなす豪快なキャラクターで、
生徒たちに「アホ」とか平気で言っちゃうのだが、関西弁でそう言われる
と、漫才の突っ込みのようで、意外とそれが生徒にとっては心地よいらし
く、先生に「アホ」と突っ込まれたくて、わざと馬鹿なことをやる生徒も
すくなからずいた。
授業も、もちろん関西弁でノリの良い授業を行い、生徒たちにも人気だっ
た。学習指導のほうは、案外細かく、例えば、授業用ノート以外に、生徒
に宿題用のノートを2冊用意させた。
そのうち1冊を授業のたびに回収し、必ず自分で、宿題の履行状況をチェ
ックしていた。生徒は提出していないもう1冊にその週の宿題を行い、次
の授業に提出していた。
R先生は、とても明るいキャラクターなのだが、自分自身のことはあまり
語らなかった。
出身地の神戸をはじめ、いろんな塾で講師を経験していること、実家には
十年以上帰っていないことは分かったが、飲みに行っても、それ以上のこ
とは自分について一切しゃべらず、こちらが聞いても「いやぁ、言いたく
ないんです」と笑っていた。
そして。
1月30日。東京・神奈川の私立中学入試解禁日の2月1日を前に、校舎
では、受験に臨む6年生への壮行会が行われた。
教師が一人ずつ、彼らへ向けて激励の話をする。僕の前に話したのがR先
生だった。その話を廊下で聞きながら、思わず泣いてしまった。
○次回へ続く

