「アナログ」(前編)
新橋まで行く用事があり、横浜駅でJR東海道線に乗った。横浜で降りた
乗客が多く、BOX席の裏側の二人掛けの席に運良く座れることができた。
私の隣に同じように横浜駅で青年が腰を掛けた。茶髪に黒いパンツとジャ
ケット。足の間にバッグをドンと置いた。
隣に誰が座ろうが、そんなこと、私には関係がない。ちょっと考え事をし
ようと思っていると、青年が床に置いた自分のバッグをもそもそ探り、ペ
ンケースと英語の問題集を取り出した。ペンケースからシャーペンだけを
取り出し、ペンケースは再びバッグへ。そうして青年は問題を解き始めた。
電車の中でまで勉強かぁ、エライなぁ、と思う。さて、どんな問題を解い
ているのか気になり、趣味は悪いが、横目でちょっと覗いた。座席にべっ
たりともたれかけて座る僕の位置から、やや前かがみで問題を解く青年の
問題集がちょうど見えたのだ。
不定詞の問題だ。青年の風貌と英単語から察するに高校受験ではなく、大
学受験の問題だろうが、おそらく基本問題のページだろう。なぜなら、こ
の僕でも解けるようなものだから。
しかし。
(おーい、青年、間違ってるぞ!)。心の中で呼びかける。(1)の答えが
違っている。羅列された単語を並び替えて一文にする問題なのだが、単語
の順番が明らかにおかしい。
(2)にとりかかろうとしたところで、青年のペンの動きが止まる。どう
やら間違いに気付いたようだ。間違って挿入して単語に上から横線を引い
た。そして、単語と単語の間に、先が突っ込む形で縦に < を書き、広がっ
た部分にさっき横線を引いた単語を書き入れた。これで正しい一文になっ
た。やれやれ。
続いて(2)。単語の並び替えを開始したところで、また青年が止まる。
シャーペンを問題集の間に置き、床のバッグをもぞもぞと探り、そうして
あるものを取り出した。
○続く。

