「因果」
思わず大きな声を出してしまった。
「そんなの、全然関係ないですよ!」と。
そんな考え、正しくない、と僕は思った。
数人の知り合いのお母さん方とお話しをする機会があった。その中のお
一人、Aさんがひどく落ち込んでいた。お子さんのことかと思ったら、
そうではないらしい。
詳しい事情までは分からなかったが、「大切な人がひどく思い病気にか
かってしまい、自分ではどうすることもできない」とのことだった。自
分のことでないだけに、それが余計、辛く、悲しい。
そしてAさんは、ぼそっとこう言った。
「私、今まで、怠けてたり、一生懸命でなかったから、こういうことに
なったのかなぁって」。
このひと言にブチっとなった。
「そんなの、全然関係ないですよ!」と。
例えば、全く勉強しなかった。だからテストの点数が悪かった。これは
理解できる。昨夜、酒を飲みすぎた。だから、今日は二日酔いで気持ち
が悪い。これも理解できる。結果に対する原因は明白だ。
しかし、これはどうだろう。自分は一生懸命生きてこなかった。だから、
大切な人が重い病気になった。
そんな馬鹿な。
大切な人が重い病気になる。それは辛いことだし、苦しいことだ。その
気持ちはよく分かる。だからと言って自分を責める必要は全くないはず
だ。
Aさんの考えは、「苦しまなければ、困難を乗り越えなければ、幸せは
得られない」に似ている。こんなふうに考える人も多いと思う。
確かにそういう一面もあるだろう。しかし、幸せを手に入れるためには
絶対に苦しまなければならないのか。それは違うんじゃないか。苦しま
ずに幸せを手に入れられたら、そのほうがいいんじゃないのか。そう思
ったりもするのだ。
「あっ、ゴメン、もう一回言って!それ、録音する!また辛くなったら
聞くから!」
Aさんはそう言って、僕の口元に携帯電話を差し出した。ちょっとは元
気になったみたいだ。
それにしても録音だなんて、言った途端に忘れてるのに・・・。

